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(c)「きのう何食べた?」製作委員会

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主演男優賞に選ばれた内野さん。オネエっぽい仕草でオトメ心を表現し視聴者の共感を得た(c)「きのう何食べた?」製作委員会

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主演男優賞に選ばれた西島さん。エプロン姿が視聴者のハートをぐっとつかんだ(c)「きのう何食べた?」製作委員会

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シロさんとケンジのカップルが、別の男性カップルと食事で交流する場面も(c)「きのう何食べた?」製作委員会

「何食べ」ロスの同志のみなさま、お元気ですか?

「何食べロス」とは、男性カップルの食と日常を丁寧に描いたテレビドラマ「きのう何食べた?」(テレビ東京系)の放送が終わってしまって、寂しい思いをしている人たちのことを言います。そんなみなさまに嬉しいニュースが! 有識者と視聴者がともに支持する質の高いドラマを表彰する「コンフィデンスアワード・ドラマ賞」で作品賞と主演男優賞を受賞したのです。

インスタグラムに料理を投稿

ドラマは、よしながふみさんのマンガ(講談社『モーニング』連載中)を実写化。この中で男性カップルを演じた、ダブル主演の内野聖陽さんと西島秀俊さんの2人が主演男優賞に選ばれました。

誰ですか? 内野さんは「主演女優賞じゃないか」と言っている人は!

もちろんドラマ放映中は「もう内野さん、主演女優賞でいいよ」と多くの人がツイッターつぶやいていましたが。それほど内野さんの演技が素晴らしかったということです。ピンクのTシャツが似合う美容師のケンジ役。これまでの役柄は、男性的なイメージの強かった内野さんがオネエな仕草を織り交ぜながら、ちょっとした心の機微を、目線や指の動きの細かいところまで、オトメ心を持つケンジを見事に演じてくれました。

毎回、弁護士のシロさん(西島さん)が手際よく料理を作り、ケンジ(内野さん)がそれを美味しそうに食べる様子が映し出されました。あまりに幸せそうで、美味しそうなので、その映像に触発され、ドラマのあとはインスタグラムに、「何食べ」レシピで作った料理画像を投稿する人がたくさん出現しました。

かくいう私もその一人。食べるのは好きですが、作るのはそれほどでもないので、忙しくなると、料理へのモチベーションが落ちてしまいます。ところが、「何食べ」のドラマを見ると、「今日はこれ!」と意欲が湧いてくるのです。そんなわけで、週末の我が家は、シロさんメニューに大変お世話になりました。レシピサイト「クックパッド」には「シロさんレシピ」で検索できるメニューが無数にあります。ドラマの終了と同時に、自分の料理モチベもガタ落ち。「何食べ」ロスとともに、我が家の食卓はメニューのバラエティが減少しました。

ダイバーシティ時代の新しいホームドラマ

「食のドラマ」に強いとされるテレビ東京のこのドラマは、「食ドラマ」を超えて、ダイバーシティ時代の「家族」を描く、新しいホームドラマとも言われ注目を集めました。とはいえ、食のシーンはこのドラマの中でとても重要です。

原作マンガの料理シーンは特徴的で、18ページの中に料理シーンが3、4ページも占めていることが珍しくありません。マンガは限られた紙幅に情報を凝縮しているので、この割合を見ると、ストーリーの中で料理がいかに大事か分かります。

だって、おかずを3品作るとしたら、その段取りが全部入っているのです。料理をしたことがない人には、この手順を見せる重要性がいまひとつわからないかもしれません。料理は1品ずつバラバラに作るわけではありません。3品それぞれに使う野菜を最初に刻んで、まな板を洗って、次に豚肉を切って、どれから火を通すかコンロの数と相談して……というふうに3品の食材と過程を一回すべてバラして、一番効率のいい作業手順を組み直し、なおかつ、愛する相方が帰ってくる時間に合わせて仕上げるのです。

これって、実はすごい段取り能力なんだけれど、日常的に料理をする人は当たり前のようにやってきたわけです。ドラマは、料理に取り掛かる段取りの部分からしっかり再現されています。だから、みんな「作りたい」という気持ちになったのかもしれません。よしながさんは、きっと自ら料理をされる方だと思うのですが、彼女がこの料理の過程を毎回丁寧に描く理由は、「日常」や「家族」というものが、面倒な小さなプロセスの積み重ねで、美味しくも不味くもなる……と分かっているからなのでしょうね。

もちろん「手抜きするな」なんて言うつもりはありません。お母さんがどんなに手のこんだ料理を作っても、必ず良い子に育つというわけじゃありません。ただ、「この小さなパーツの組み合わせこそが愛しい人生なのだな」という、あたかも小津安二郎の映画のような味わいの原作があり、それをドラマで再現したのが今回の「何食べ」だったのです。

ふと考える「家族のこと」や「愛って」

40代の男性カップルで「子どもを当てにできないんだからしっかり貯蓄しよう」と節約を心がける弁護士のシロさん。ゲイカップルの何げない日常とそれを取り巻く人たちが淡々と描かれ、食材の変化とともに季節の移ろいを感じられます。そして、「パートナーのこと」「老いた親のこと」「自分たちの老後のこと」「家族のこと」、さらに「愛って……」みたいなことまで、ふと考えてしまうのです。それは、異性愛者とか同性愛者ということと関係なく、誰もが感じたり、悩んだりすることです。

ドラマは、ただ2人の幸せな日々を描いているわけではありません。

「自分の築いた財産を親にはびた一文渡したくないんです」とパートナーとの養子縁組を希望する、おじさんカップル(菅原大吉さんと正名僕蔵さん)も登場しました。このシーンは原作のマンガではほんの1ページぐらいです。ドラマでは演技派の2人が醸し出す雰囲気が見事で、ブワッと厚みと奥行きが出ていました。彼がこれまで事業で築いた苦労や親との確執などが透けて見えるようで、心が揺さぶられる場面でした。

どんな作品でもそうですが、あらかじめ原作を読んでいると、「実写化」には不安がつきまといます。もちろん好きな作品であれば、見たいけれども、自分のイメージと違ったらブーイング。これが勝手な原作ファンの心理というものです。しかし、今回のドラマ化は、心から「実写で動くシロさんとケンジを見せてくれて、ありがとう。脇役もスーパーの中村屋の主題歌も、ありがとう」という気持ちになれる尊いものでした。

パートナーと生きていくのっていいな

ところで、読売新聞の掲示板サイト「発言小町」には、3年も前の2016年8月に「きのう何食べた?(漫画)ドラマ化するなら?」というトピが立っていました。投稿者はシロさん役に西島さんの名前を挙げ、そしてレスの中で誰かがケンジ役に内野さんを推す……。キャスティングを決めたテレビ関係者たちが、ひょっとして発言小町ものぞいたのかも。

同性愛者のカップルを扱っているがゆえに、「最近やけにLGBTものが多かったよね」と一過性のブームのように言われることもあります。しかし、「パートナー」や「家族」、友達やお節介な隣人、誰とどのように生きていくのか、どう向かい合っていくのか、大切なことをたくさん考えさせてくれたドラマです。「パートナーと生きていくのっていいな」と思わせてくれたダイバーシティ時代のホームドラマ、それが「きのう何食べた?」だったのです。

7月に行われたテレビ東京の定例社長会見で、「何食べ」の続編について、小孫茂社長は「必ず実現したい」と述べていました。「何食べ」ロス同士のみなさんとともに、シロさんとケンジに一日も早く再会できるのを心待ちにしています。